欧州はロシア産天然ガスから脱却できるか? 2027年までに輸入量をゼロにするという提言も

ヨーロッパを恫喝したロシア
原油と石炭
経済制裁の実効性は
燃料不足を懸念
ロシア産天然ガスの全面禁輸を検討
輸入量を8割削減
依存度も大きく低下
輸入ルートは3つ
再ガス化施設を増強
供給元を多様化
需要も低下
2027年までに輸入をゼロへ
ロシア産は安い
分断が進むEU
インフラ整備が必要
脱炭素化
各国が決めるべき?
ヨーロッパを恫喝したロシア

ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した結果、EUはロシアに対する経済制裁を発動、ガスの供給が滞るとして「ヨーロッパの冬は暗くなる」とも言われた。

原油と石炭

欧州委員会のWebサイトによると、制裁は現在のロシアからの原油輸入の9割に影響を及ぼしているという。だがロシア産石炭の輸出に関しては、欧州の輸入制限が与える影響は輸出量全体のわずか25%にとどまっているという。

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経済制裁の実効性は

ロシアがウクライナ侵攻の戦費をまかなえなくするためにEUは制裁を検討してきたのだが、その実効性は再評価が必要かもしれない。

燃料不足を懸念

とはいえ、EUの決定にも理由がないわけではない。燃料不足や燃料価格の高騰は誰にとっても避けたいものだからだ。

ロシア産天然ガスの全面禁輸を検討

そして、たしかに燃料価格は大きく上がってしまっているのだが、EUもゆっくりと大きな目標に向けて動いている。ロシア産天然ガスの全面禁輸が検討されているのだ。

輸入量を8割削減

スペインのシンクタンク、エルカノ王立研究所によると、現時点まででEUは、燃料の配給制などの措置を取ることなく、パイプラインを経由して輸入されるロシア産天然ガスの量を8割削減することに成功しているのだという。

依存度も大きく低下

この削減量は非常に大きなものだ。2021年には欧州の天然ガス輸入先は42%がロシアだったが、2023年にはその数字はわずか14%となっている。

輸入ルートは3つ

ロシア産天然ガスは3つのルートで欧州まで運ばれる。海路か、トルコ経由のパイプラインか、ウクライナ経由のパイプラインだ。

再ガス化施設を増強

脱ロシア依存を実現するために欧州は液化天然ガスの輸入設備を増強しつつあり、その処理のための再ガス化施設も増やしている。

供給元を多様化

そうすることで、多様な供給元からの輸入を受け入れることが可能になる。新たな輸入先にはアメリカやオーストリア、カタール、トリニダード・トバゴなどが存在する。

需要も低下

欧州の脱ロシア依存を進めるもうひとつの要因は、そもそもの需要の減少だ。多くの国が国策として燃料使用を削減しようとしている上に、暖冬が続いていることもあって備蓄量が歴史的に多い水準となっている。

2027年までに輸入をゼロへ

こういった状況を受けて、欧州エネルギー委員のカドリ・シムソンは2027年までに欧州へのロシア産天然ガス輸入をゼロにすることを提言した。この目標は2022年に発表されたコミュニケ「RePowerEU」にも沿うものだ。

ロシア産は安い

だが、これは決して簡単な目標ではない。全面侵攻開始直後よりはだいぶ値段も落ち着いたとはいえ、ロシア産のガスはいまだに他の供給元と比べると大幅に安価なのだ。

分断が進むEU

さらに、スペイン紙『エル・パイス』が解説しているように、オーストリアやスロヴァキア、そしてロシアの同盟国であるハンガリーなどが安価なガスに依存しており、ロシアからの流入を完全に断つのを困難にしている。制裁を強制するためには欧州議会での全会一致が必要なためだ。

インフラ整備が必要

米テキサス州で開催されたエネルギー業界の国際会議「CERAウィーク」に集まった原油・ガス会社の経営陣によると、欧州が完全にロシア産天然ガスから脱却するためにはさらなるインフラ整備が必要なのだという。ロイター通信が報じている。

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脱炭素化

エルカノ王立研究所の専門家らによると、2027年までにロシア産ガスの全面禁輸を実現することは、EU内での分断が進んだ現在困難な可能性が高いという。とはいえ、経済の脱炭素化が進行している現在、ロシア産天然ガスの市場規模はかなり限定的なものになるだろうとも指摘されている。

各国が決めるべき?

EU内部での分断はかつてなく進んでおり、エネルギー政策が一致しないだけでなくロシア政府との関係にも大きな濃淡がある。専門家からは、最善の解決策は個々の国でロシア産天然ガスを買い続けるかどうかを決めてしまうことだという意見も出てきている。

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